114回医師国家試験が終わりました。
「打倒厚労省」と銘打って昨年4月から全身全霊(?)をかけて取り組んできましたが、ふたを開けてみれば平均ピッタリ。
試験会場で、試験監督(厚労省職員)の目の前で大声で
「やっぱ厚労省嫌いや~」と言ってしまったので印象は最悪です(笑)
113回の敗因としては必修問題というブロックで8割に3点(1問)届かなかったことが挙げられるのですが、
僕の中でもやもやしているのが虫垂炎の英語問題です。
https://medu4.com/113B34
↑のリンクをクリックしてもらえれば問題に飛びます。
要約すると、
『2日間お腹が痛い25歳のお兄ちゃんが病院に来て、よくよく話を聞くと、昨日はちょいちょいヘソの周りが痛かったが今は右の下っ腹が痛いという。
先生次何しましょ?』
ってことなんですが、この問題、約70%の受験生が造影CTを選んだんですが、
正解はPeritoneal irritation(腹膜刺激症状)のチェックだったんです。
診断という意味では造影CTだし、手術するかどうかを確認するという意味では腹膜刺激症状をチェックするのはあっているので、どっちが先かはCTのほうが先だろうと思っていたのでモヤモヤしていました。
で、昨年12月にまさに自分が虫垂炎(盲腸)になったので自分の体験と照らし合わせて、考察していこうと思います。

1日目
ジンワリと臍の上が痛くなる。腹が冷えてしまったのだろうとあったかくして過ごすも軽快せず。腹痛は徐々に左わき腹、左下っ腹に移動。
2日目
左から真ん中の下っ腹がだいぶ痛くなる。勉強どころじゃない。便秘がちなので自分でイチジク浣腸やら下剤やらを使って全力で腹痛を解消しにかかるも、むしろひどくなるばかり。この辺りで盲腸の2文字が脳裏をよぎる。
手術は嫌だ、手術は嫌だ…

3日目
前々から予約していたスターウォーズの映画を見るという予定を強行。
腹痛自体はマシになっていたので盲腸かどうか確かめる圧痛点を試してみることに。

結論、全部痛い。
左側を下にして横になると右下腹が痛くなるので自然と自分が右を下にして寝ていることに気づく。(Rosenstein徴候)
この辺でうすうす虫垂炎なのはわかっていましたが、チケット代がもったいないので映画を見に外出。
歩いてかかとが着地するたびに右下腹部が痛い。(かかと落とし試験陽性)
見たスターウォーズもMX4Dで座席の振動があるタイプだったので心配されましたが、そこは大丈夫な揺れでした(笑)
帰宅後すぐ内科へ。
体温チェックし、血圧脈拍測定後、採血。お腹をちょこちょこっと触って板状硬になっていないかチェック。(なっていると腹膜を超えて炎症が広がっているので結構ヤバイ)
そしてCTをチェック、虫垂炎と診断し、手術ができる大きな病院へ移動。
ここでようやく造影CTを撮影。手術に必要な検査は全て済ませました。
この辺でわかったのはどうも造影しなくても虫垂炎は分かるらしいということ。CTの待ち時間は結構長いのでそれなら手術の準備も同時進行のほうがいいし、体触るだけで手術が要るかわかるならそっちを先にするのが効率がいいという事。
結局手術するかは次の日の朝に決めるのでそれまでは水は飲んでOK、食べるのは絶対NGとなり、入院しました(2日目くらいから吐き気があったので勝手に自分で絶食はしていました)
病室がお爺さんばかりで、いびきと寝言の大合唱だったので、結局寝付けなかったせいか、朝には腹を切る覚悟もでき、先生とあいさつして開口一番「切ります!」と元気よく宣言。手術が決まりました。
手術や病院である程度大きな治療を受けたことのある人ならわかると思いますが、手術をするときは必ず患者の同意を取ります。この時、どんな手術をして、どれくらいの時間がかかって、麻酔はどういう風にして、副作用やその他どんなリスクがあるのかを説明されます。
実習でもこれに同席したことはあるのである程度何を言われるのかはわかっていましたが、いざ自分が言われてみると、先生結構早口だなーとか、30万人に1人の割合で死にます、とか、外見は平静を装っていましたが、内心「マジっすか?!」って感じで理解が追いつきませんでした。一般の人に説明するときはもっとゆっくりやっても難しいだろうな、と実感します。
手術は全身麻酔で行います、という説明を聞き、思わず尿カテはどうするんですか?と食い気味で聞いてしまいました。手術中はトイレに行ったりもできませんし、体内の水分の出入りを評価しなければならないので尿道カテーテルというゴム(?)の管を術後しばらくまで留置します。これがなかなか不快らしい。自分自身も羞恥心の塊みたいな人間なので(実際同期が働いている病院への紹介はすべて断った)その管の留置は断りました。代わりに手術前にトイレに行ったか3回くらい聞かれました。(笑)
説明を終え、同意書にサインし1時間後、手術用の浴衣みたいな服に着替えて手術室へ運ばれます。
手術台に移り、服をはだけさせパンツ1丁に。体をいろんな固定具で固定していきます。
ここで麻酔の先生とご対面。簡単な挨拶のあと、上から酸素マスクが下りてきます。しばらくして、先生から麻酔かけていきますねーとアナウンス。
15秒の沈黙。
何も起きない。
あれ、俺もしかして麻酔かからんのじゃね?最強なんじゃね?
…
…
…
…
???『管抜きますよー』
ぼく「??? ‼‼!”#$&@?¥」
管を抜くと同時に管の上にたまっていた唾液が出てきて、同時にオエッとえづいてしまい嘔吐したと勘違い。と同時に手術が終わっていたことに気づく。(錯乱)

先生:手術終わったからねー、部屋に帰りますよー、ベッド移れるかな?
ベッドの移乗を終え、手術室から運び出される。まだ麻酔が効いていてお腹の傷は全然痛くなく、軽く起き上がってスタッフの方々や麻酔の先生に
「ありがとうございました、ありがとうございました…」と息絶え絶え。
そこからまた一眠りして、気が付くと病室でした。
寒い。めちゃくちゃ寒い。
手術室はエアコンが効いていて結構冷えます。手術が終わると体温の復温はしますが、麻酔の覚めが悪かったらしく、体温が下がってしまい、体の震えが止まらない。
看護師さんに電気毛布をもらいミノムシのようにくるまってまた一眠り。
目覚めると、麻酔からは醒めていましたが今度は腹の痛みが襲ってきました。
これがなかなかに痛い。
腹を切ってまた縫い合わせているのだから当たり前といえば当たり前なんですが、骨折したりした時のような激痛ではない7点/10点満点の痛みが長時間続くのでメンタルが結構つらい。
痛み止めの輸液が始まるまではずっと表情がゆがんでました。
手術が終わると基本的にベッドの上でしばらく動けないので、エコノミークラス症候群の予防にパンパンのストッキングをはきます。履くときは結構線維が硬くて大変なんですが、一回履くとビロビロになって内心本当に効果あんのかこれ、といった感じで、痛み止めが効いている間に歩行開始するタイミングを勝手に早めてしまいました(笑)
歩いてみる以外にもですが、人間知らず知らずのうちに腹筋を使っているもので、咳やくしゃみはもちろんのこと歩くときも背筋を伸ばして歩くことができませんでした。体幹はやっぱり大事です。

手術の次の日の昼からは食事を開始し、2日後に退院となりました。
手術後の傷の中にしこりのような5㎝大の塊を触れたのでケロイド(傷が治る過程でできてしまう線維組織の塊みたいなもの、傷つけるほど大きくなる)かな?と心配しましたが2か月ぐらいたった今では完全になくなり、手術の跡もきれいさっぱりになりました。現代医療ってスゲー。
まとめると、https://medu4.com/113B34で登場したお兄さんはお腹が痛くてとりあえず近所の町医者に来た段階なので、町医者的には自分のところで対応しきれるかどうかを先にチェックしなければならない、だからこそ造影CTで時間をかけて診断をするよりも先に、ヤバイかどうかを調べる必要があったので正答がPeritoneal irritationになった、ということになります。

ちなみに、今年の114回医師国家試験での問題で
https://medu4.com/114C41
https://medu4.com/114D45
という問題が出ましたが、この経験のおかげで2点もゲットすることができました。
臨床実習にもうひとアクセント付けてみたい皆さん、病人実習はじめませんか。
百聞は一見に如かずですよ(錯乱)